役に立つかもしれないはじめの一歩

砕いたホタテ貝殻の粉末がストロンチウムを除去

粉砕したホタテガイの貝殻は、ストロンチウム(Sr)を除去できます。
ただし、砕いていないホタテ貝殻や、焼成したホタテ貝殻粉末はSrを除去できません。
これが何に使えるかというと、原子力発電所から出る汚染水の浄水に使える“可能性”があります。

その根拠として今回は以下の論文を解説します。

ホタテ貝殻粉末を用いた水溶液中からのストロンチウム除去

この論文が言いたいことはこちら。砕いたホタテ貝殻粉末は水溶液中のSr濃度を約3分でゼロ(ここで使用した測定装置の検出限界以下)まで低下させることができます。

論文の一枚絵

実験に使用した汚染水に見立てたSr水溶液は非放射性物質です。しかし、Srが放射性物質か否で化学的性質は変わりません。そのため、放射性物質のSrにも使用可能であると考えられます。

背景

食材として有名でおいしいホタテガイですが、重量比で約半分が貝殻です。そしてそのほとんどは、ゴミとして捨てられている現状があります。さらに、他の貝と異なり、一か所に貝殻が集まりやすいという性質があります。なぜなら、水産加工会社でホタテはむき身にされて、貝殻は加工会社でゴミになることが多いためです。

そんな現状があるホタテ貝殻ですが、チョークや土壌改良材などに利用されている例もあります。ここで問題なのが、これらの利用例はホタテ貝殻だけではなく、貝殻と同じ主成分(炭酸カルシウム)である、石灰岩でも作れてしまうため、利用が広まっていない現状があります。そこで、ホタテ貝殻にしかできない利用法を!ということで実験を進めました。

ホタテ貝殻は生物が作る独特な柱状形状をしており、小さな孔が多いと思われます。

ホタテ貝殻の柱状構造のイメージ絵

ここから吸着剤に使えないかと発想しました。そして、吸着対象としてSrを選んだ理由として主に2つあります。

1. アサリやカキ殻はSr(非放射性物質)を吸収沈着する
 *原発事故関係なく自然の海洋中にもSrは存在します。
 (大越健嗣, 海のミネラル学-生物との関わりと利用 成山堂書店, 2007年, p63より)
2. Srは人間の体内のCaと置換しやすい
 (日本セラミック協会「生体材料」(環境調和型新材料シリーズ)日刊工業新聞社2008年, p295より)

以上の理由からホタテ貝殻でSrの吸着を試みました。

実験と結果概要

ホタテガイから、身や蝶番を取り除き、貝殻を洗浄します。洗浄した貝殻をスタンプミルという装置で3時間叩き割り、乳鉢で3時間すりつぶします。出来上がった粉末がこちらです。

粉砕後のホタテ貝殻粉末(電子顕微鏡写真)

粉末をSr濃度10mg/Lの水溶液の中に入れてかき混ぜます。

ビーカーにホタテ貝殻粉末とSr水溶液を入れて混ぜる

かき混ぜた後の上澄みを採取して、原子吸光光度計という金属イオン濃度を測定する装置で分析をします。
ここで、ホタテ貝殻粉を入れてかき混ぜたものと、貝殻粉を入れずにかき混ぜたものを比較します。2つを比較することでSrがどれだけ残っているか、残留率を調べることができます。Sr残留率が低いほど、Srを除去できていることになります。その結果が下図です。

ホタテ貝殻粉末と試薬炭酸カルシウム粉末のSr残留率比較

まず、赤丸に注目します。ホタテ貝殻粉末とSr水溶液を混ぜた後のSr残留率を示しています。右にいくほどかき混ぜる時間が長くなります。およそ3分で検出限界(0.01mg/L)以下までSr濃度が低下し、Srを除去できていることが分かりました。
次に、青三角に注目します。ホタテ貝殻の主成分である炭酸カルシウムの試薬粉末をSr水溶液を混ぜた後のSr残留率を示しています。残留率は90%台を推移しておりSrを除去できていないことが分かります。
以上より、ホタテ貝殻粉末は水溶液中のSrを除去でき、それは炭酸カルシウムでは実現できないという知見が得られました。

なぜSrが除去できる?

“2018年の論文執筆時点”ではホタテ貝殻がSrを除去できる理由まではっきりとは分かっていません。そのため、この論文では「Srがホタテ貝殻によって除去できていること」そして、「除去されたSrがホタテ貝殻粉末に存在すること」の2つを示して結ばれています。

最後に

ホタテ貝殻粉末を用いたSr除去について、実用化にはいくつもの壁があります(詳細割愛)。しかし、乗り越えられないものではありません。
今回は、こんな研究があるという内容を知っていただきたいという思いで、この記事を書きました。今後の展開などは、公表できる段階になった際にお知らせします。

また、本記事は適宜修正をする予定です。ご意見ご感想ありましたら、問い合わせからお願いいたします。


本記事で使用した論文の引用元: https://doi.org/10.2109/jcersj2.18156
この論文の著作権は公益社団法人日本セラミックス協会にあります。(転載許可済)